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「ニッポン人脈記」男と女の間には(11) [朝日新聞「男と女の間には」]

朝日新聞夕刊連載「ニッポン人脈記」男と女の間には(11)

2010年9月28日(火)

第11回は、「オカマだけどOLやってます。」で有名なエッセイスト&イラストレーターの能町みね子さん。

正直言うと、今まで能町さんの作品については「オカマ」という言葉を標題にしていることに、かなり抵抗感があった。

でも、今回の記事で、
「オカマという言葉がいいとは思わないが、『性同一性障害』は使いたくなかった。『障害を乗り越えて』と励まされるのは性に合わないし、病名で自分を語りたくない。『だって、「こんにちは。私、肺がんです」って変でしょ』」
と述べられています。

病名をアイデンティティにするのは、どう考えてもおかしい、
「障害」「病気」で他人の同情は買いたくない、
というのは、私の長年の主張。

その点、同じ感覚ということがわかって、うれしいかったです。

さて、このシリーズもいよいよ残すところあと2回。

実は、歌手の中村中さんが、美しいステージ写真入りで登場することは、すでに「新sあらたにす」で予告されています。
http://allatanys.jp/D004/index.html
たぶん、第12回が中村中さん+戸田恵子さん(女優)でしょう。

となると、タレントのはるな愛さんが登場するのか、微妙になってきます。
愛ちゃん、このシリーズの取材時期が「24時間テレビ」(NTV)の24時間マラソンの準備で忙しい時期だったので、取材を受けられなかったのかもしれません。

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ニッポン 人脈記 男と女の間には(11)
11回.JPG

人生 面白がらなきゃ
くしゃみは怖い。低い地声が出て、一発で男だと感付かれてしまう。

能町みね子(31)は、鼻がむずむずするたびに懸命に抑え込んだ。半年の特訓で女性らしい声が出せるようになったのに、くしゃみごときで無にしてなるか。

ようやく手にした華のOL生活なのだ。

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能町は、小さな頃から自分が男であることに違和感があった。大学を出て東京で就職、ネクタイを締めるようになると、もう耐えられない。1年たたずに退社した。精神科で診てもらったら「性同一性障害ですね」。

親に打ち明けたのは、実家で一緒に韓国ドラマを見ている時だった。ペ・ヨンジュンがプロポーズする場面で、その勢いを借りて切り出した。母親は泣きながらも「幸せになってくれるのが一番」と言ってくれた。

まずは職探し、これからは女として働くのだ。正社員だと戸籍上の性別がわかってしまう。非正規雇用の事務職を探した。履歴書にある性別欄はドキドキしながら「女」に丸をつける。数社で面接を受け、不動産会社で働くことになった。

OLになってみると、働く女の世界は新鮮だった。偏見と思い込みが次々に崩れていく。

いつも群れているのかと思ったら、昼休みは各自ばらばらに食べに出て行く。トイレットペーパーを使う時はガラガラと豪快で、「髪がまとまらなくて」とぼやけば「そんなことないよお」と言ってくれる。重い荷物を運ぼうとしたら、男の社員が持ってくれた。女子万歳――。能町はすっかりはまった。

同僚にわからないよう別名でブログを始めた。題して、「オカマだけどOLやってます。」。

オカマという言葉がいいとは思わないが、「性同一性障害」は使いたくなかった。「障害を乗り越えて」と励まされるのは性に合わないし、病名で自分を語りたくない。「だって、『こんにちは。私、肺がんです』って変でしょ」

ブログは、2007年の手術で体も女になるまで続けた。同じ題で単行本になり、さらに文春文庫に入るほど人気を呼ぶ。能町は文筆業も始めた。

同僚には今も明かしていない。

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手術をした年、能町は上野に映画を見に行った。「のんきに暮らして82年…たぐちさんの一日」というドキュメンタリーで、大学で長く司書を務めた老人の引退後を淡々と撮っていた。

上映後、10人ほどいた観客のなかに内澤旬子(43)がいるのに気づき、能町は思い切って声をかけた。内澤は国内外の屠場をルポした「世界屠畜紀行」(解放出版社)を著し、能町はその姿を追ったテレビ番組を見てファンになっていた。

内澤が屠畜に興味を持ったのはモンゴルを旅した時、さっきまで草原を走っていた羊が夕食前にはバラされて女性に洗われているのを見てからだ。

日本では屠場で働く人が差別されてきたことは知っていた。内澤は思った。「差別の問題を前面に出すんじゃなくて、『どうやって食肉になるのだろう』というあっけらかんとした読者の疑問に、職人技に光を当てることで答えたい」。皮をはぎ、内臓を取り出す様子をスケッチとともに子細に伝えた。

能町が男だったことは、初対面のあとブログを読んで知る。美人の「文科系女子」にしか見えなかったので驚いた。

能町が自分に声をかけてきた理由も、ブログを読んでみるとわかった。そこには、性同一性障害のつらさより、内澤によれば「そうは言っても面白いことがあったりする日常」があった。2人で飲みに行っては恋愛や仕事の話をし、一緒にヨガ教室にも通うようになる。

内澤は数年前に乳がんと診断された。昨年からエッセー「身体のいいなり」を雑誌に連載している。闘病記とは違う。たとえば医者の説明が長すぎて頭に来た日のことをつづる。時間で料金が決まるからだ、と。

内澤は、がんで切除した乳房を再建した。その内澤が能町と愚痴を言い合う。

「形が気にくわない。何か違うんだよね」「そんなこと言ったら私だって、しょせん本物にはかなわないんですよ」

実は深刻な話を笑顔で交わす。人生、渋面だけではいられない。どうせなら面白がらなきゃ。

                             (渡辺周)

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