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強制女性化(Forced Feminization)について [現代の性(性別越境・性別移行)]

2012年11月18日(日)

私のジェンダー論の講義の第3講「『性』と社会を考える(2)― セクシュアリティ論の基礎 ―」で、セクシュアリティの構成要素の1つとしての性的嗜好(セクシュアル・プレファランス Sexual Preference)の事例としていろいろな「嗜好」をレジュメに羅列してある。

ほんとうにいろいろあるので、中でも「大物」のフェティシズム(拝物愛 Fetishism)をちょっと解説するくらいで、他はあまり説明しない。

ところが、目ざとい学生さんがいて「強制女性化(Forced Feminization)って何ですか?」と質問してきた。

「支配と従属(Dominance and Submission)のプレイの種類で、欧米では1つのジャンルになっています」と当りさわりのない説明をした(時間もなかったし)。

もっと即物的に言えば、Mistress(女主人)が(たまにはMasterも)男性を「強制的」に女性化するプレイのこと。

日本ではSMプレイの範疇になっているが、一般にはあまり馴染みがないと思う。

ちなみに日本ではSM(正しくはS&M=Sadism and Masochism 加虐と被虐)という言い方が一般化しているが、欧米ではほとんど使わない。
上に書いたように、ほぼ同じことに対してDominance and Submission(支配と従属)が多く用いられる。
(詳しくは、拙稿「SM」『性的なことば』講談社現代新書 2010年)

言葉ではイメージが伝わりにくいので、画像で説明しよう。
forced feminization1.JPG
2人のミストレスが小柄な少年を捕まえて、鞭で威嚇しながら(上の画像)、強制的に女装させて、お化粧をしている(下の画像)。
これが欧米における強制女性化のイメージだ。
forced feminization4.JPG

上の写真をおそらく勝手に二次利用して、こんな文章が付されているものがある。
forced feminization5.jpg
Keep still Corey while I finish putting on your lipstick.
Oh your so lucky been feminized but us two ladies.
Since we caught you wearing ladies lingerie were going to help you become a lady.
You will no longer be a boy as the super strength female hormone’s we injected you with earlier will take you into the realms of extreme which will give you huge breasts and a plump rear end and you will become every mans fantasy. By Victoria
(拙訳)
動かないでCorey、私があなたの口紅を塗っている間は。
おお、あなたはとても幸運よ、私たち2人の女性に女性化されて。
あなたが女性の下着を身に着けたことを察知してから、私たちはあなたが女性になることを手助けしているの。
私たちがあなたに注入する超強力な女性ホルモンで、あなたはもう男の子ではなくなるの。
巨大な乳房とむっちりした丸い尻を与えられた極限の領域にあなたを連れて行きます。そしてあなたはすべての男性のファンタジー(性的な空想)になるのよ。 
ビクトリア

あるいは、イラストだとこんな感じ。
右が調教助手役のメイドさん、中央の少年はもうかなり女性化が進行している。
今、ミストレスが帰宅したところ。
メイドさんが「ワンピースをたくしあげなさい。あなたのショーツの股のあたりが湿っているかどうか、ミストレスがご覧になりたいそうだから」と命じている。
forced feminization6.jpg
もう1枚、写真を紹介しよう。
Forced Womanhood40-5.JPG
これはアメリカで刊行されている『Forced Womanfood』というそのものスバリの雑誌の40号(2004年)に掲載されている写真。
女装させられた男性が拘束されて両方の乳首に吸引機を装着されている。
調教しているのは男性の脚の間に顔が見える女性で、ミストレス・スーザンという人。

この減圧式カップ型のバスト増大用機械、10年くらい前まで、女性のバスト増大用として通信販売の広告が女性週刊誌に載っていたように思う。
減圧しているときこそ大きくなったように見えるが、通常圧になれば元に戻ってしまい、実際はほとんど効果がない。
こんなことをするくらいなら、女性ホルモンを継続投与するか、外科的手術で豊胸してしまうのが、よほど手っ取り早いし、効果的だ。
しかし、そうした不可逆的な手段をとると、ほんとうの女性化になってしまい、「プレイ」ではなくなってしまう。

ところで、先ほど「日本ではSMプレイの範疇になっている」と書いたが、たとえば、私の知人の日向可憐(ひなたかれん)さんが主催するSM倶楽部「Paradiso」は「女装SMプレイ」(純女の女王様と完全女装の男性客とのSMプレイ)に特化したシステムで、欧米の Forced Feminization にかなり近い。
http://www.k-hinata.com/
「Paradiso」のプレイ写真ちょっとお借りしてみると、こんな感じ。
Paradiso1.jpg
Paradiso2.jpg
下の写真の男性はヒップの丸みからして、かなり女性化しているように思う。
ここでも、現実の女性化と、女性化プレイの境界が微妙になっている。

そもそも「強制女性化プレイ」という言葉からして矛盾をはらんでいる。
「プレイ」は性的な嗜好(楽しみ・快楽)として行われるわけで、そこには女性化プレイを行うという自発的な意志があるはずだ。
自発的意志に基づいて行われる「プレイ」は本来「強制」ではない。
逆に言えば、女性化プレイをする気がない人を、ほんとうに強制的に女性化したら、それは明かな犯罪(傷害罪)である。

ある女装SM系の掲示板に、こんな書き込みがあった。
「私を強制的に女性化改造してくださるご主人さまを探しています。外国のポルノ女優のような爆乳にされ、アナルを徹底的に拡張調教されて、毎日、大勢の男性のザーメンを注ぎこまれるような性奴隷の生活にあこがれています」

この投稿者は、女性化されて性奴隷に堕されることを希望し、自分を「強制的に女性化」してくれる人を募集している。
もし適当な「ご主人様」が現れて、希望通りにこの人を女性化してくれたとしたら、それは当人の希望を叶えたわけで、到底「強制」とは言えない。

つまり、何度も言うように、厳密な意味での「強制女性化プレイ」は成り立たないということだ。

先ほど写真を紹介した『Forced Womanfood』という専門誌には、強制女性化のシーンを描いた写実的なイラスト(絵)が毎号たくさん載っている。
男性器が描かれている絵がほとんどなので紹介できないのが残念なのだが、修整を加えてお見せすると、こんな感じ(『Forced Womanfood』45号、2005年)。
この手の絵や写真で股間を隠したら、興ざめもいいところなのだが、まあ仕方がない。
ミストレスが強制女性化中の少年のコルセットの紐を絞っているイラスト。
Forced Womanhood39-2 (2).jpg
(『Forced Womanfood』39号、2002年)
少年は、ピンヒールを履かされ、着脱不能な手袋と足枷で自由を奪われている。
髪が十分伸びていないし、乳房のふくらみは女性ホルモン投与だけでまだ豊胸手術はされていないように見える。
それでも、外観的にはもう少年には見えず、明らかに少女だ。
ただ、ペニス形のポールから伸びる鎖の先は小さなペニスに接続されていて、かろうじて少年であることがわかる。

もう一点、紹介しよう。
右側の女性がミストレスで、左側が強制女性化されている男性。
Forced Womanhood45-5 (2).jpg
(『Forced Womanfood』45号、2005年)
この男性は、もう相当、女性化が進んでいて、顔立ちもすっかり女性になっているし、乳房も豊胸手術で巨乳化されている。
しかし、ミストレスが引っ張っている鎖の先の股間には小さくなったペニスがまだある。
それと、よく見ると肩幅の広さやそれに比べて乏しい腰の張りに男性の名残がある。

さらにもう一点。
162_1000 (2).jpg
(『Forced Womanfood』35号、2002年)
スタイル抜群のミストレスが強制女性化された男性の黄色いドレスを脱がしている。
男性はブロンドの髪も伸びてすっかり女らしくなり、豊胸手術をされた乳首にはピアスリングが施され、リングに接続されたチェーンはペニスを拘束している金属の器具につながっている。
膝には革ベルト、足首にはチェーンで連結された足枷、そして足首が完全に伸びるようなドレスと同色のピンヒールを履かされている。
これでは、歩くことは難しく立っているのがやっとだろう。
手も後ろで拘束されていて、ミストレスニなにをされても抗うことは不可能だ。
このイラストは『Forced Womanfood』誌の購読申込用紙に付せられたものなので、この雑誌が喚起するイメージの典型と見てよい。

しかし、『Forced Womanfood』の各号を見ると、強制女装化のシーンの絵に比べて写真は圧倒的に少ない。
つまり、イメージを絵にすることはできても、実際に写真に撮れるような形で具現化することは難しいということだ。

ところで、「『性』と社会を考える(2)― セクシュアリティ論の基礎 ―」の講義では、性幻想(セクシュアル・ファンタジー Sexual Fantasy)という概念を説明する。

性幻想(Sexual Fantasy)とは、大脳が描く心理的な性的イメージで、どのような性的イメージやシチュエーション(情況)に欲情するか?ということだ。
私は、大脳が抱く性的イメージ(性幻想)の具現化が人間の性行動の基本であると考えている。
もっとも、様々な社会的規制や心理的抑制から、セクシュアル・ファンタジーと現実の性行動とは一致しないことが多いのだが。

「強制女性化プレイ」は、このセクシュアル・ファンタジーという概念を用いると説明できるように思う。

つまり、「強制女性化」は現実の性行動というよりもファンタジーなのである。
強制女性化プレイを好む人は強制女性化というファンタジーに欲情している。
現実のプレイ(性行動)では、そのファンタジーを維持し崩さないようにさえすれば、必ずしも強制でなくても、本当の女性化でなくてもよい。
「強制女性化」は、現実の性行動よりも性幻想に基づく、性的嗜好(Sexual Preference)なのだ。

しかし、プレイがファンタジーの具現化である以上、「強制女性化プレイ」を続けていけば、身体は現実に女性化し、いずれ後戻りできない一線を越えてしまう。

「調教師インタビュー」の調教師T氏に「調教された」菜津美さんは、T氏に命じられるままにアナルを拡張され、豊胸手術をされ、男性として生活できない身体になって、ニューハーフ・ヘルス嬢に「堕ちて」いく。
http://zoku-tasogare-sei.blog.so-net.ne.jp/2012-10-07-1
しかし、それはT氏が「奈津美の願望をかなえる手伝いをしてるわけです」と言うように、実はそれが菜津美さんのセクシュアル・ファンタジーであり、その具現化なのだ。

だから、私の「後悔していませんか」という問いかけに、菜津美さんは「自分一人だったら、今のような状態にはならなかったと思う。でもそれほど後悔はしていない」と答えている。
菜津美さんにとってT氏は、セクシュアル・ファンタジーを具現化するための「道具」だったのかもしれない。

以上、「強制女性化」ということについて、考えてみた。
「強制女性化プレイ」という一見、矛盾する言葉も、性幻想の具現化としての性行動という論理を使えば、かなりの程度、説明可能だと思う。

ところで、欧米の「強制女性化」の資料をみていると、女性による男性の女性化というイメージが圧倒的である。
これに対して、日本では、女性による男性の女性化もあるが、どちらかと言うと、男性による男性の女性化というパターンの方が多いように思う。
どうも、欧米と日本では、「強制女性化」のファンタジーの有り方に差があるようだ。

さらに言えば、「強制女性化」プレイで実践される行為にも差があるように思う。
たとえば、欧米の「強制女性化」では、CHASTITY(直訳すれば「貞操帯」)と呼ばれる金属製のリング状装置を女性化される男性のペニスに装着するパターン多いが、日本では必ずしもそうではない。
NON-PIERCINGタイプのCHASTITY.JPG
↑ NON-PIERCINGタイプのCHASTITY(直訳すれば「貞操帯」だが・・・)

CHASTITYは、欧米の「強制女性化」プレイではほとんど必須アイテムなので、いろいろ工夫されている。
上の写真のものはもう旧式で、最近では下の画像のようにデザインや機能性を高めたいろいろな種類のものがあるようだ。
tumblr_n1r7quyXRP1tt0q8mo1_500.jpg
↑ 欧米の強制女性化プレイで使われているCHASTITYの数々・・・。

こうした欧米と日本の「強制女性化」プレイにおける文化的な差異については、いずれ比較考察してみたい。

2012年03月22日 「実父に」戸籍訂正申し立て…性同一障害の夫 [現代の性(性別越境・性別移行)]

2012年03月22日 「実父に」戸籍訂正申し立て…性同一障害の夫
3月22日(木)

「実父になりたい」という気持ちには同情するが、法律的には無理筋だと思う。

民法772条は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」としている。

人工授精で授かった可能性が強い子でも、自然授精で授かった可能性も皆無ではない。
もしかすると、夫とのSexによる子かもしれない、という善意の「推定」に基づき「夫の子(嫡出子)」として戸籍に記載する。

つまり、実際に血縁があるかどうかの証明が必要とされるのではなく、血縁があるかもしれないという「推定」主義に立っている

実態として血縁があるかどうか、それが証明できるかどうかではなく、推定できればOKという考え方だ。

そもそも、子どもの出生届を出すときに、わざわざ「人工授精で授かった子です」と言う夫婦はまずいない。

つまり、戸籍係は人工受精児であることは知り得ないから、夫婦の子だから嫡出子だろうという「推定」をして戸籍に嫡出子と記す。

ところが、今回の場合、夫の戸籍には元女性であったことが明記されている。
戸籍係はそれを容易かつ明白に知り得る。

元女性には100%授精能力はない。
「夫の子だろう」という「推定」は成り立たない。
善意の「推定」をする余地がないのだ。

したがって、戸籍に嫡出子と記すことはできないことになる。

一方、自治体が勧める特別養子縁組制度にすれば、戸籍上も実子と同様の扱いになり、かつ養子は嫡出子である。
なぜ、それではいけないのだろうか?

なにか養子に対して強い偏見があるのではないだろうか?と思ってしまう。

この問題で、いつも思うのは、生まれてきた子どもを嫡出子と非嫡出子に分ける制度そのものが、子どもの(とくに非嫡出子の)人権と福祉に反する重大な差別だということ。

そうした制度の差別性を指摘・批判することなく、ひたすら「嫡出子として認めてほしい」という主張には、私は、申し訳ないが、論理的にも、気持ち的にも乗れない(支持できない)。

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「実父に」戸籍訂正申し立て…性同一障害の夫

心と体の性が一致しない性同一性障害のため戸籍上の性別を女性から男性に変えて結婚した大阪府在住の夫(29)が21日、第三者の精子を使った人工授精で妻(30)との間に生まれた男児(2)について、戸籍上、実父と認められないのは不当だとして、戸籍の訂正を東京家裁に申し立てた。

法務省によると、女性から男性に性別を変えた夫の妻が出産した届け出は全国で16件。すべてが戸籍上は、未婚の男女間の子(婚外子)扱いで妻の子とされ、父親欄は空白になっており、その是非を巡る司法判断を求めるのは全国初となる。

夫は2008年に性同一性障害に関する特例法に基づいて戸籍の性別を男に変更し、妻と結婚。09年11月、妻が男児を出産した。

夫は当時住んでいた兵庫県内の自治体に出生届を提出。自治体側は「父親とは認められない」として、いったん婚外子としたうえで実子と同様の扱いとなる特別養子縁組を提案したが、夫は「養子ではなく、普通の父親として認めてほしい」として届けを取り下げた。

今年1月、本籍地のある東京都新宿区に再び、出生届を出したが、区は東京法務局の指導で、3月2日に職権で、婚外子扱いで妻の子として戸籍に記載し、父親欄は空白とした。

これに対し、夫は「特例法で男、夫になれた。法の趣旨から父親になれる権利もある」として、父親欄に自身の名前を記すよう戸籍訂正を求めて申し立てた。

申立書では、婚姻中の女性が人工授精で出産した子どもを「夫の子と推定する」とした民法772条に基づき、「戸籍上、夫の子と記載すべきだ」としている。

法務省は「夫は以前女性だったので、妻が婚姻中に産んだ子としても夫の子とは推定できず、法的に男児の実父とはいえない」としている。

『読売新聞』2012年3月21日
http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20120321-OYO1T00726.htm


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