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ニッポン 人脈記 男と女の間には(10) [朝日新聞「男と女の間には」]

朝日新聞夕刊連載「ニッポン人脈記」男と女の間には(10)

2010年9月27日(月)

5日ぶりに掲載の第10回は、ギタリスト・女優の石島浩太さん。

プロ野球の裏方(通訳・渉外担当など)から、女性になって、ギタリスト・女優に転じられた方。

うかつにも、存じ上げませんでした。
ブログはこちら↓
http://profile.ameba.jp/bloomykota/

中年になっての性別移行にもかかわらず、スレンダーでお美しく、うらやましい限り。
それにしても、なぜ男名前のままなのでしょうか?

同時に、いろいろな世界で、性別移行をした人が頑張って活躍しているのだな、ということを改めて思います。

ちなみに、石島さんが出演し主人公高峰譲吉(加藤雅也)の義母メアリーを好演した映画 「さくら、さくら ~ サムライ化学者高峰譲吉の生涯」(市川徹監督、2010年)は、東京では来春2011年公開予定。
譲吉の妻、メアリーの娘を演じたのが、私も面識がある歌手・モデルのナオミ・グレースさんです。

さて、残すところは3回。

第11回が歌手の中村中さん、第12回がタレントのはるな愛さん・・・と予想。

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ニッポン 人脈記 男と女の間には(10)
10回.jpg

ゆらり揺られて 私は
2006年、米国で開かれた初のワールド・ベースボール・クラック(WBC)で、日本は王者になった。

その夜、選手たちがシャンパンをかけ合う祝賀会場に、大会の裏方として奔走してきた石島浩太(48)の姿があった、喧騒が遠く聞こえていたのは、歓喜の渦にあって場違いなことを考えていたからである。
「やっぱり女になろう」

翌日、石島は女性ホルモンを打った。

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石島は幼い頃からスカートをはきたがった。ミニカーをもらっても興味がない。男の子であることがしっくり来なかった。

通信社の記者だった父の転勤で欧米、アジアを転々とする。転校すること17回、日本語を忘れた時期もあった。男か女か自分でも分からなくなるのに、母国の姿までぼやけてくる。

私は何者なのか。親類からは「おかま」、ロサンゼルスでは「ジャップ」と言われた。石島は揺らぎ続けて育つ。

どっちつかずでいる苦しさを忘れさせてくれたのが、白黒つける勝負の世界――球界での仕事だった。

1988年、26歳でダイエーホークスの通訳と渉外担当になる。97年には大リーグに舞台を移した。ヤンキースとメッツというニューヨークの球団で伊良部秀雄(41)や野茂英雄(42)の通訳を務め、日本人選手の大リーグ入りの交渉でも活躍する。

「野球がベースボールを追い抜く日」が夢だった。少年時代に米国で読んだ新聞記事では、大リーグの監督が「日本は2A程度」と語っていた。大リーグより2段も格下ということだ。

その日本野球が、WBCを制すまでになった。敬愛する監督王貞治(70)は、優勝の日、石島に「君も球界長いよな」と声をかけてくれた。張りつめていた気持ちが一気に緩んでいく。

代わりに頭をもたげたのが、忘れたはずの「私は女」という気持ちだった。

WBCから1年後、体つきが変わり、球界の仕事もほとんどしなくなった石島に、別居していた米国人の妻から離婚届が届く。大切な人との最後の糸も切れて呆然自失、石島はニューヨークでハドソン川に飛び込もうとして警官に保護される。地元のレノックス・ヒル病院の精神科に入院させられた。

石島はギターが得意で、大リーグの頃はマイク・ピアザ選手らとバンドを組んで演奏したものだった。その石島が、病院の娯楽室で弦が一部切れたアコーステックギターを見つける。

母国を思い、日本の子守歌を奏でたつもりが、石島の来し方を映して旋律はどこか無国籍の哀歓をたたえた。入院患者が集まって聴き入るようになる。

大小はあれ、人は誰しも揺らぎの中にいる。ましてそこは異邦人の街ニューヨークだった。

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退院後、石島は日本に戻った。ギターを手に細々とライブ活動をしていた昨年、また転機が訪れる。映画監督の市川徹(62)に女優にならないかと声をかけられたのだった。

市川は37歳でテレビ神奈川を辞めて独立し、タレント間寛平(61)主演の映画を手がけてヒットさせる。その後は不発で2億円の借金を抱えたが、ビデオ映画のシリーズで巻き返した。

今回撮ろうとしていた「さくら さくら」は、アドレナリンを発見した高峰譲吉を描く映画である。主役の加藤雅也(47)ら配役は順調に決まった。問題は、義母のメアリー役をどうするか。愛すべき女性だが、我が強く、高峰と大げんかする。

市川が知り合いから石島の話を聞いたのは、そんな時だった。男も女も経験している石島は、感情の起伏が激しいメアリーを演じるのにうってつけと思えた。英語力も申し分ない。
撮影に入ると、石島は皿を床にたたきつけ、高峰役の加藤を鬼の形相でののしった。本編には入らなかったが、市川は「あれには驚いた」。石島は「大リーグとの交渉では、あれくらい当たり前だったよ」と笑う。

裏方から表舞台へ。石島は今、大リーグについて講演し、ギタリストで、女優でもある。すべてが緩やかにつながって、どれも自分なのだと思う。

メアリーを演じた石島が驚いた巡り合わせがある。

高峰が67歳で亡くなった時の入院先は、石島がギターを弾いた、あのレノックス・ヒル病院だった。
                             (渡辺周)

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