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2011年05月14日 昭和初年の北海道の遊廓 [性社会史研究(遊廓)]

2011年05月14日 昭和初年の北海道の遊廓

5月14日(土)

成りゆきで、昭和初年の北海道の遊廓についても調べてみた。

なお、北海道に拠点都市の遊廓の開設年代については、以前、少し調べたことがある。
http://zoku-tasogare-sei.blog.so-net.ne.jp/2012-09-16-17

資料は例によって、上村行彰著『日本遊里史』(春陽堂、1929年)の巻末附録「日本全国遊廓一覧」。

この時代の北海道は、日本の他地域と比べて人口密度が圧倒的に希薄なので、遊廓の規模は、都市部のいくつかを除けば、おしなべて小さい。

娼妓100人以上の遊廓は、九州では17か所あるのに対し北海道には6か所しかない。
50人以上で切っても、東北地方ですら15か所あるのに北海道は10か所にとどまる。

なので、娼妓30人以上の指定地を掲げる

【指定地別ランキング(娼妓数30人以上)】

1 函館「大森」    67軒 366人( 5.46人)
2 札幌「白石」   32  314 ( 9.81人)
3 根室「梅ケ枝町」 21  196  ( 9.33人)
4 旭川「中島」   24  181 ( 7.54人)
5 室蘭「幕西町」  19  117 ( 6.16人)
6 釧路「米町」   14  100 ( 7.14人)
7 小樽「入船」   16   96 ( 6.00人)
8 小樽「手宮」   15   79 ( 5.26人)
9 帯広「木賊原」   7   71 (10.14人)
10 網走「北見町」   8   56 ( 7.00人)
11 厚岸         6   45 ( 7.50人)
12 旭川「曙」     7   43 ( 6.17人)
13 滝川         6   37 ( 6.17人)
14 苫小牧        6   32 ( 5.33人)
15 留萌         8   31 ( 3.87人)

函館「大森遊廓」と札幌「白石遊廓」(大正9年に「薄野遊廓」が移転)が抜けて大きい。
ただし、現在では人口規模も経済力も大きく差が開いている札幌と函館の地位が、この時代はまだ函館が上。

ただ、娼家の規模(貸座敷1軒当たりの娼妓の人数)は、函館「大森」より札幌「白石」の方がかなり(約1.8倍)大きい。

3位は道東の根室「梅ケ枝町」だが、道央の旭川が新旧の遊廓(「曙」が旧廓で、「中島」が新廓)を合わせると31軒224人で3位相当になる。
また小樽も「入船」「手宮」が色街として拮抗していたが、合わせると31軒、175人で5位相当になる。

以下、室蘭「幕西町」、釧路「米町」が100人以上、少し規模が小さくなり、帯広「木賊原」、網走「北見」など、それぞれに地域の開発拠点として早くに都市化(正確には町場化)した場所が続く。

さて、この時代の北海道の主要産業といえば炭鉱と漁業、とりわけ、日本海岸では鰊(にしん)漁が盛んだった。

炭鉱町には多くの鉱夫が、鰊漁の港には漁夫(ヤン衆)がたくさん集まるので、娼妓の需要があり、遊廓が栄えたかと思われる。

しかし、データで見る限り、どうもそうした傾向はあまり見えない。
上位ラインキングでは、6位の釧路は炭鉱町でもあったが道東の拠点としての性格が強い。15位の留萌も炭鉱町であり鰊の水揚げ港でもあったが、それだけくらいだ。

そこで、15位以下から炭鉱町を拾うと・・・、あまりない。

18 岩見沢   6軒  24人
26 歌志内  3   12
29 羽幌村   3   10

とても、大勢の鉱夫に応じられる規模ではない。
炭鉱主や幹部はともかく、一般の鉱夫の給料は、指定地の娼妓と遊ぶには不十分だったということだろうか。

では、鰊で賑わった日本海側の街はどうだろう。

20 岩内町        4   21
21 寿都村        3   21
22 瀬棚村        4   17
23 江差町「新地」    3   15
24 神恵内(かもえない)2   14
28 余市町        4   10
33 松前 「福山町」  2    7
35 増毛町        2    6
37 汐路村        2    4
39 磯谷村        1    4
47 古平町新地町     1    3

岩内、寿都、瀬棚などは町の人口規模に比べて遊廓が大きく、鰊景気の影響が認められる。
しかし、他はどうもあまりぱっとしない。

蝦夷地唯一の城下町の遊廓だった松前「福山遊廓」、北海道で有数の歴史を誇る江差「新地遊廓」の零落ぶりは哀れを誘う。
松前「福山遊廓」にいたっては、礼文島船泊と同規模にまで没落している。

調べてみたら、鰊漁の最盛期は明治30年代(1900年代)で、昭和初年(1930年頃)にはすでに漁獲量は半減し、鰊景気は去っていたようだ。

また、ニシン漁では、ほんの数日で親方たちは一年中遊んで暮らせるほどの大金を儲けたにしても、多くのヤン衆にまで、遊郭で遊ぶほどの金が回ったのだろうか?

そもそも、ヤン衆は、短期の季節労働者なので、遊廓を支える恒常的な客とはなり得なかった。

ということで、結論として昭和初期の北海道の遊廓は、やはり拠点都市集中型だったと思われる。
これは、開拓拠点に遊廓が形成されていった明治前半期の形態が、そのまま昭和初期にまで踏襲されているということだろう。

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【昭和初年の北海道の遊廓(娼妓30人以下)】

16 枝幸         5軒  29人
17 幌泉(えりも町)  5   26
18 岩見沢        6   24
19 森村         4   24
20 岩内町        4   21
21 寿都村        3   21
22 瀬棚村        4   17
23 江差町「新地」    3   15
24 神恵内(かもえない)2   14
26 歌志内       3   12
27 石狩町        2   12
29 羽幌村        3   10
30 利尻島鷲泊村     3   10
31 霧多布村       3    9
32 広尾茂寄村      3    8
33 松前「福山町」   2    7
33 礼文島船泊村     2    7
35 増毛町        2    6
36 紋別村        1    6
37 浜益村        2    4
37 汐路村        2    4  
39 深川村        1    4
39 静内下々片村     1    4  
39 磯谷村        1    4
39 浦河町        1    4
39 稚内町常盤通     1    4
39 標津郡標津村     1    4
45 利尻島鬼脇村     2    3
46 礼文島香深村     2    3
47 古平町新地町     1    3
48 虻田郡虻田村     1    2
49 美国町大字澗     1    1
50 択捉島紗那村     1    1
51 国後島泊村      1    0

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【参考:北海道の遊廓の開設時期】

安政5年(1858)函館「山ノ上遊廓」→ 明治4年(1871)「蓬莱町遊廓」→明治40年「大森遊廓」
明治4年(1871)札幌「薄野遊廓」→大正9年「白石遊廓」
明治6年(1873)小樽「金曇町(こんどんちょう)遊廓」明治14年「住之江遊廓」→明治29年「松ヶ枝遊廓」「手宮遊廓」
明治初年?   江差「新地遊廓」
明治9年(1876)根室「弥生町遊廓」→ 明治12年(1879)平内町→明治24年(1891)花園町
明治27年(1894)網走「北見町遊廓」
明治28年(1895)室蘭「幕西遊廓」
明治30年(1897)旭川「曙町遊廓」
明治31年(1898)帯広「木賊原(とくさはら)遊廓」
明治33年(1900)釧路「米町遊廓」
明治40年(1907)旭川「中島遊廓」

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【文献】

(学術論文)
星 玲子「北海道における娼妓解放令--函館地方を中心にして」
『歴史評論』 491号(1991.3月)
星 玲子「北海道における娼妓自由廃業--1900年前後を中心に」
『歴史評論』 553号(1996年5月)
星 玲子「近代公娼制度における賦金の実態について--1870年代の北海道を中心にして」
『総合女性史研究』 18号 (2001年3月)

(単行本)
小寺平吉『北海道遊里史考』(北書房 1974年)
木野 工『旭川中島遊廓』(光風社書店 1975年) → 短編小説集
平林正一・久末進一『聞き書 室蘭風俗物語』(袖珍書林 1986年10月)
谷川美津枝『ものいわぬ娼妓たち-札幌遊廓秘話-』(みやま書房 1984年11月)
山谷一郎『オホーツク凄春(セイシュン)記-雑草の女・中川イセ物語-』(講談社 1986年6月)

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