SSブログ

2012-09-15 [朝日新聞「男と女の間には」]

朝日新聞夕刊連載「ニッポン人脈記」男と女の間には(6)

2010年09月15日(水)

第6回は、「満を持して」と言う感じでFtMの虎井まさ衛さん(46)と、脚本家の小山内美江子さん子(80)が登場。

それにしても「性てんかん」と書くと、違う病気をイメージしてしまうのは私だけでしょうか?

----------------------------

ニッポン 人脈記 男と女の間には(6)

6回.JPG

「性てんかん」 黒板に書いた
カルーセル麻紀(67)が男から女になった先駆者なら、その姿に励まされ、女から男への道を切り開いたのは虎井まさ衛(46)である。

虎井は女の子として生まれたが、意識のうえでは男の子だった。いずれ体の方も男の子になると信じて疑わない。

小学校5年生になった時、養護教諭が女子だけを集めて授業をした。成人女性の裸の絵を見せて、「あなたたちも大人になったらこういう体つきになって赤ちゃんを産むようになります」。頭の中が真っ白になった。以後3日ほど記憶がない。

ある日、学校から帰るとテレビのワイドショーでカルーセル麻紀が性転換手術の話をしていた。これだ、と思った。

虎井は教室の黒板にでっかい字でこう書いた。
「性てんかん」

そして同級生に宣言する。
「自分はこれをします。今日から『僕』と言います。

あとは手術のことで頭がいっぱいになった。「とにかく費用を稼がなくちゃ」。校内の廊下で得意の縦笛を演奏し、同級生や職員からチップを募る。1日30円のお小遣いは貯金した。

----------------------------

中学、高校と進むにつれ、体は本人の意に反して女らしくなっていった。胸はさらしで締め付け、生理の日には壁に頭を打ち付けて泣いた。学生服のスカートが苦痛で、「今日も女装して学校に行くのか」とうめいた。

両親に打ち明けたのは、大学卒業の間際である。母親は焦ったが、「自分の産んだ子だからね」と受け入れてくれた。父親はそうはいかなかった。「おれより一秒でも早く死ね」「女らしくなるから強 姦されてこい」。動転が収まらなかったのだろう。父親は亡くなるまで虎井と折り合いはつかなかった。

卒業式の4日後、乳房を切除する手術のためニューヨークに向かう。その後も日米を行き来し、2年後の1989年、子宮摘出やペニス形成の手術をすべて終えた。日本で正式に性転換手術が始まる9年前のことだ。

600万円の費用は、その半分をクレジット会社からの借金で賄った。工場などで働き、13年かけて完済した。

----------------------------

01年5月、虎井の体験談を読んで面会を求めてきた人がいた。テレビドラマ「3年B組金八先生」の脚本家、小山内美江子(80)だ。

79年に始まった人気シリーズは、校内暴力や引きこもりといった社会問題を積極的に扱ってきた。小山内は、このドラマで「性同一性障害」を取り上げようと思ったのだ。

理由があった。小山内の知り合いには、「女の人として暮らしたい」と母親に打ち明けた青年がいた。授業で男子の水着が着られないのが死ぬほど嫌という少女もいた。心と体が違うとはどういうことか、広く知ってもらいたい、小山内はそう考えていた。

脚本のモデルになってほしいという小山内に、虎井は「あのドラマなら、きっとまじめに描いてくれる」と快諾する。

完成したドラマでは、心は男子である女子生徒が転校してきて、級友たちと衝突を繰り返す。女子生徒は性同一性障害であることを告白し、最後はみんなの理解を得て「男として生きる」道に踏み出すのだった。

主役はデビューしたての上戸彩(25)で、男子と鼻血を出しながら殴り合う場面も演じた、後に上戸に会った虎井は「こんな可愛らしい女の子があんなにきつい役をするなんて」と驚いた。上戸はケンカの場面の撮影の後に泣いてしまったそうで、小山内は「本当によく頑張った」と今でも感心する。

虎井はドラマの出来に満足だったが、1カ所だけ納得できない場面があった。主人公が父親に胸を触られ、「キャーッ」と叫ぶところである。この場面は、自分の甲高い声を嫌った主人公がフォークでのどを刺してケガをする挿話につながるのだが、虎井は真顔でこう言うのだ。

「自分なら悲鳴なんかあげない。殴って逃げますよ」

ともあれ、ドラマの影響は絶大だった。精神科医のもとに、自分も女ではなく男なのだと訴える人が次々に訪れるようになった。いま虎井が講師をしている立教大学では、教え子の3分の2までが、このドラマで性同一性障害を知ったと答えている。
                            (渡辺周)

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。