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「ニッポン人脈記」男と女の間には(5) [朝日新聞「男と女の間には」]

朝日新聞夕刊連載「ニッポン人脈記」男と女の間には(5)

2010年9月13日(月)

第5回は、子どもがいる性同一性障害の当事者、森村さやかさん(50)と水野淳子さん(49)が登場。
大迫真美さん(54)は写真なし。

水野さんの取材は、第2回の圭子ママの直前だったので、取材が入っているのは知っていました。
なかなか良いお写真です。

う〜ん、それにしても、どうして子どもがいる性同一性障害の当事者がテーマだと「お涙頂戴」調になってしまうのでしょう?

「涙」で社会的理解を得ようという手法、私は好きではありません。
はっきり言えば「邪道」だと思います。

あっ、泣いている当事者を批判しているわけではありません。
泣いている当事者の写真をわざわざ使う新聞の問題です。

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ニッポン 人脈記 男と女の間には(5)
5回.JPG

パパもおっぱいあげたい
2003年の性同一性障害者特例法では、子持ちの人は戸籍の性別変更はできないとされた。

該当した一人に、奈良県生駒市の森村さやか(50)がいる。06年に手術を受けて男から女になったが、別れた妻との間に娘が1人いるため、戸籍の性別は変えられずにいた。

森村は男で有ることに子どもの頃から強い違和感があった。中学生の時には「おかま」からかわれと、暴力をふるわれた。同級生みんながいる教室で服を脱がされたこともある。

このままでは一生いじめられる。そう思った森村は「男らしく演技して」生き抜こうと決めた。本当の自分を悟られまいと、友だちとは距離を置いた。

大人になり、周囲の勧めで結婚もした。自分も夫としてやっていける。そう思ったが、森村の中で妻が「仲の良い友だち」以上になることはなかった。結婚生活が、きしんでいく。

妻には「あんた、おかまやろ」と言われたが、妻のいらだちも無理はない。森村は娘の養育費を毎月払うことを決め、離婚する。

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森村と同じ悩みを持つ人が関西にいた。兵庫県尼崎市の会社員、大迫真美(54)だ。

大迫も結婚して娘が1人いたが、やはり男であることの違和感が消えず、03年に離婚している。05年に手術で体も女になったが、特例法の「子なし要件」で戸籍の問題が残っていた。

06年11月、大迫は神戸家裁尼崎支部に、森村は奈良家裁に、戸籍を女性に変えるよう申し立てた。2人同時になるよう仕掛けたのは、特例法の制定に力を尽くした法学者、大島俊之(63)である。世論喚起を狙ってのことだった。

大島は「子なし要件」に反対だった。特例法は施行3年後に見直すことになっていたから、大島はその機をうかがっていたのだ。大迫と森村の訴えは最高裁で棄却されたものの、その過程で大阪高裁は特例法の見直し規定に触れて議論を促した。大島の読み通りだった。

この間、父親から「母親」になって我が子を育てつつ、この要件の撤廃に動いた人もいる。岐阜県羽島市の水野淳子(49)だ。

水野は中学生の時、男の体をした自分が嫌でたまらず、睾丸に針をさした。大人になって結婚し、2人の男の子をもうけたが、自分の体に嫌悪感は消えない。次男に授乳する妻を見て思った。「自分もおっぱいをあげたい」。切実だった。女性ホルモン投与を始め、離婚した。

10歳と8歳だった男の子は、水野が育てることになった。長男は「お母さん」、次男は「かあさん」と呼ぶようになる。ホルモン投与で胸は膨らんでいるが、下半身は男の水野と風呂に入ると、2人は「女の人なのにかわいそう」と言っていた。

高校生になった長男は、水野と連れ立って国会に赴き、特例法制定の中心になった当時の参議院議員南野知恵子(74)に要件撤廃を求める陳情書を手渡した。

特例法が改正されたのは08年6月、子どもが成人した後なら自分の性別を変えられることになった。水野は次男が成人すれば、大迫は大学4年生の娘が就職したら、届け出るつもりだ。

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森村も、娘の成人を待って、戸籍の性別を女に変えようと思っている。

最後に会ったのは離婚した頃、娘はまだ小学校に上がる前だった。映画に連れて行き、一緒に観覧車に乗った。

別れ際、娘が「パパ、次いつ会える?」と聞いてきた。

「お母さんの言うことを聞いて、いい子でいなさいよ。また会えるかもしれないから」

うそだった。髪を伸ばし、ホルモン療法を始めていた森村は、これ以上父親を演じることは無理だとわかっていた。

それからは白いビーズのブレスレットが娘とのよすがになった。最後の日、トイレに寄る娘に「パパ、ちょっとこれ持っといて」と渡され、なぜか返し忘れたまま手もとに残ったブレスレットだった。

最近、映画の「おくりびと」を見た。本木雅弘(44)演じる納棺師が、自分を捨てたと思っていた父親の遺体と向き合う場面で、森村は号泣した。私が死んでからでもいい、娘があんな風に会いに来てくれたら、どんなにうれしいだろう。

その時は、パパと呼ばれても構わない。
(渡辺周)


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