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2009年09月11日 女子選手のインターセックス問題 [現代の性(性別越境・性別移行)]

2009年09月11日 女子選手のインターセックス問題

9月11日(金)
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「セメンヤは両性具有」豪紙報道 男女の生殖器持つ

陸上の世界選手権ベルリン大会女子800メートルで優勝し、男性ではないかという疑惑が浮上したキャスター・セメンヤ(18)=南アフリカ=について、医学的検査の結果、男性と女性の生殖器を持つ両性具有であることが分かったと、11日付のオーストラリア紙シドニー・モーニング・ヘラルド(電子版)が報じた。

同紙によると、セメンヤには卵巣がなく、男性ホルモンのテストステロンを大量に分泌する精巣が体内にあることが医学的報告で示されたという。同選手は先月のベルリン大会の後、血液や染色体のほか婦人科の検査を受けていた。国際陸上競技連盟(IAAF)はこれらの報道を受けて「IAAFの公式見解ではない」との声明を出し、最終判断は11月20、21日の理事会以降となる見通しを示した。

IAAFのデービス広報部長はAP通信の取材に対し、「もし男性ホルモンのおかげで有利であることが証明されれば、欺いたのではなく、生まれつきなのだから、メダルを剥奪(はくだつ)することは極めて難しいだろう」と語った。豪紙もメダルを剥奪されることはないものの、2位のジャネット・ジェプコスゲイ(ケニア)に別の金メダルが与えられる可能性があると報じている。

『朝日新聞』2009年9月11日 19時55分
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報道が事実とすればだけど・・・、「ああ、やっぱりなぁ」というのが正直な感想。
ただ、「両性具有」という表記(翻訳)はちょっといただけない。

「卵巣がなく」「精巣が体内にある」のなら、性腺の性はまったく男性で、「両性具有」(真性半陰陽)ではない。
なんらかの理由で、外性器の形態が女性的だったため、女子と誤認されたケース(男性仮性半陰陽)なのではないだろうか?

せめて、インター・セックス(半陰陽)と表記してほしかった。

とはいえ、今回のセメンヤ選手のようなケース、それほど驚くべきことでもない。
女子スポーツ界で、インターセックスが問題になることは、過去にもしばしばあったから。

古くは、1935~36年の「コウベック選手事件」。
女子陸上800m(←今回と同じ競技)世界記録保持者であるゼニカ・コウコバ嬢(チェコ)が男性仮性半陰陽であることが判明し、男性への転換手術を受けて、ゼネック・コウベック氏になった事件。
男性への転向過程が、センセーショナルかつ詳細に報道され、国際的なニュースとして世界を駆け巡った。
ちなみに、この時の新聞記事が、人間に対して「性転向(性転換)」という言葉を用いた日本で最初の事例となる(それまでの「性転換:は魚や鶏の話)。

日本では、戦後の1950年代に、集中的に顕在化した。
1953年12月、女子やり投げで日本選手権を2連覇していたT・T選手が、マニラ・アジア大会出場のためのセックス・チェックで男性仮性半陰陽(本来の性別は男性であるが性器の外観が女性的で女性と誤認されたケース)であることが判り、1955年1月に男性への転換手術を受けた。

続いて、1954年3月には、前年に女子陸上200mと走り幅跳びで国内第1位記録を、走り高跳びで高校新記録を出し、将来を嘱望されていたN・T選手が、心臓疾患を理由に突然競技を引退している。

T・T選手とN・T選手が残した記録は、1956年2月に「転性」を理由に抹消されている。

男性への移行が比較的うまくいった両選手の場合と違って、いろいろ問題が生じたのは、1957年9月に男性仮性半陰陽が判明した女子砲丸投げの第一人者だったM・T選手の場合。

女子選手時代から男性としてのジェンダー・アイデンティティ(性自認)が強かったT・T選手と違って、M・T選手は女性アイデンティティを持っていたため、男性への転向が受け入れられなかった。

さらに、T・T選手の場合、女子社員として勤務していた八幡製鉄(現在の新日本製鉄の前審)が男性社員としての雇用継続を認め、再出発を祝福するムードがあったのに対し、M・T選手の場合は、勤務先の大日本紡績(現在のユニチカの前身)が転性を理由に雇用契約の無効を主張し退社を迫まり、社会問題になった。

再び海外に目を転じると、1966年の世界スキー選手権の女子滑降と、1967年の女子大回転で優勝したエリカ・シュネッガー選手(オーストリア)が、セックス・チェックで不合格になり、1968年に男性への転向選手を受けた。
その後、エリック・シュネッガーとして、女性と結婚し父親になっている。

1970年以降、セックス・チェックが厳格化され、不合格者は事前に隠密裏に処置(競技からの強制的引退。理由づけは心臓疾患がほとんど)されるようになると、女子選手のインターセックス問題が顕在化することは少なくなった。

ところが、1990年代から、女子選手たちの人権意識が向上するにともない、国際大会でのセックス・チェックが簡略化・廃止の方向になった。
その結果、再び(特に発展途上国の女子選手の中から)問題になるケースが顕在化するようになる。

最近の例では、2006年12月のドーハ・アジア大会、陸上女子800m(←またまた同じ競技)で、銀メダルを獲得したサンティ・ソウンダラジャン(インド)が試合後の性別検査の結果、「女性としての性的特徴を持っていない」と結論づけられ、メダルを剥奪されている。

インターセックスは、まったく先天性のもので、意図的な不正行為(性別詐称や薬物投与)とは異なり、本人にはなんの責任はない。

しかし、睾丸を体内持ち、骨量の増大・筋肉量の増強に寄与する男性ホルモンが大量に分泌されている身体状態は、競技能力という点では、明らかに有利である。

女子という枠組みでの競技である以上、やはり他の女子選手との公平、競技の公正さの維持という観点から、女子競技からの除外は、やむを得ないと思う。

それまでの女子スポーツ選手としての競技人生で積み上げた努力とキャリア(名声)が水泡に帰すという点では、おおいに同情に値する。
しかし、インターセックスだったからと行って、その人の人間としての尊厳には何ら変わりはない。

セメンヤ選手も、これからの人生、女性として生きるにしろ、男性として生きるにしろ、胸を張って生きて欲しいと切に思う。

【参考文献】
三橋順子「性転換の社会史(1)-日本における「性転換」概念の形成とその実態、1950~60年代を中心に-」
三橋順子「性転換の社会史(2) -「性転換」のアンダーグラウンド化と報道、1970~90年代前半を中心に-」
(いずれも、『戦後日本女装・同性愛研究』 中央大学出版部 2006年3月)

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