SSブログ

2007年09月10日 朝日新聞 「家族:性を超えて」 [現代の性(性別越境・性別移行)]

2007年09月10日 朝日新聞 「家族:性を超えて」

9月10日(月)
9日の『朝日新聞』朝刊に、友人の土肥いつきさん(45歳)が出てるということなので、昨夜遅く、自宅に戻って、早速探してみた。
たぶん、生活面だろうと思って、新聞の中ほどを探す。
出ていない。
おかしいな、と思いながら、もう一度チェック。
なんと第1社会面(後から2頁目)にデカデカと、しかも、ご夫妻のカラー写真入りで載っていて、びっくり。

「家族 性を超えて」という3回シリーズの第1回で「私の謙一郎君を返して」(井田香奈子)。

この見出しにも驚いた。
「謙一郎」とは、いつきさんが、3年前、性同一性障害を理由に改名する前の名前。
「私の謙一郎君を返して」というフレーズは、NHK教育テレビの「ハートをつなごう:性同一性障害」にご夫妻が出演したときに、奥様の淳子さん(43歳)が発した言葉。

自分の理想の男性像だった夫が、性同一性障害の「治療」という形で、徐々に女性に移行していくことに対する、やり場のない怒りがこめられている。

以後、性同一性障害の夫をもつ妻の感情を表す言葉として、ネット上などで、一人歩きしている感がある。

この問題の関係者でまともな感性の人間なら誰でも、胸に突き刺さる鋭く強い言葉だ。
それを、見出しに使うとは・・・・(だから使ったのだろうが)。

記事は、そうした性同一性障害の夫とその妻の苦悩と葛藤、そして、妻が「私たちの結婚も間違いない」、夫が「この家族を続けたい」と思い至るまでをたどっている。
笑顔で背中を合わせて立つ夫妻のカラー写真を大きく掲げ、性同一性障害と向き合って、危機を克服した家族の姿を紹介する内容。

一読して、どうしようもない違和感が残った。
それが何なのか、今日一日、ずっと考えていた。

1つ目は、家族をここまでマスコミに晒すことへの違和感だろう。
私は、自分の性別の問題に関わることで、家族に対する取材は一切拒否している。
今日も、その種の取材依頼のメールが来たが、お断りした。
個人の問題で家族の平穏を乱すことはしたくないし、すべきでないと考えているからだ。
時代遅れの倫理観だと言われるかもしれないけども、それが家族を守る立場の者として最低限の責任だと思う。

ただ、家族のあり様は、それぞれだから、この点に関して土肥夫妻を批判するつもりはまったくない。
今回の取材にしても、奥様がマスコミに出ることを、ご自分の判断で(自由意志で)決めているのだろうから、他人がとやかく言うべきことでないだろう。

問題は、やはり記事のあり方、全体のトーンだろう。
自分の性別違和感、女性になりたいという気持ちを、妻に告白すること、つまりカミングアウトを美化(理想化)している印象がどうしてもぬぐえない。

カミングアウトというものは、する方は、してしまえば気持ちは軽くなる。
しかし、される側は、その分、気持ちが重くなるものだ。
だから、カミングアウトは、重い荷物を持って歩く人が、傍らを歩く人に荷物を分け持ってもらうことに例えられる。

性別に関わるカミングアウトは、される側の方がずっとたいへんなのだ。
とりわけ夫婦間では・・・。
土肥淳子さんのような聡明で気持ちのしっかりした女性でも、「私の謙一郎君はどこ?」「謙一郎君を返してよ」と叫んでしまうくらい。
並みの精神力の妻だったら、精神的に堪えられなくて当然だと、私は思う。

私の今までの見聞では、土肥夫妻のように、カミングアウトして、夫婦(家族)関係を維持、もしくは再構築できた例は、少数だと思う。
その多くは、夫婦関係の解消・破綻、つまり離婚・家庭崩壊に至っている。

土肥夫妻は、ある意味で、性同一性障害を抱えた夫婦の理想像になっている。
いや、マスコミがよってたかって理想化しようとしていると言うべきだろう。

だが、理想は理想であって、誰もが実現できるものではない。
そうした現実を見ずに、例外的にうまくいった夫婦を取り上げるとしたら、それはカミングアウトをいたずらに奨励することになりかねず、マスコミによるミスリードだと思う。

この連載、毎週日曜日の掲載らしい。
ぜひ、残り2回で、うまくいかなかった事例も取り上げてほしい。

性別違和の問題に関しては、専門家もマスコミも、カミングアウトを奨励する。
「早ければ早いほど良い」と明言する性同一性障害の専門医もいる。
隠すことは不誠実だし、「治療」の妨げになるということだろう。

しかし、私は、「言わぬが花」(世阿弥『風姿花伝』)という古い言葉を思い出す。
まあ、時代遅れの人間のたわ言としか、関係者には受け取られないだろうが。



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。