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2008年09月17日 幻の女装・性転換小説:なかにし礼「華麗なる遍歴」 [性社会史研究(性別越境・全般)]

2008年09月17日 幻の女装・性転換小説:なかにし礼「華麗なる遍歴」

9月17日(水)
著名な作詞家であり、直木賞作家でもある、なかにし礼さん(1938年~) の初期の小説に「華麗なる遍歴」という作品がある。

性転換者の「日記」を、同級生の男性が紹介する形式で、女装・性転換をメインテーマに、サド・マゾやマリファナなど、当時の新風俗も取り入れた異色作だった。

しかし、「なかにし礼オフィシャルサイト」の「年譜」や作品リストにも、この小説についての記載はない。
http://www.nakanishi-rei.com/

国会図書館の所蔵リストや、古書店のデーターベースなどを検索してもヒットしないことから、少なくとも同名の単行本は、刊行されなかったものと思われる。

数年前に、ある先輩女装者から、この小説について「お持ちではないですか?」と尋ねられたことがある。
残念ながら、手元には連載3回分(12・17・最終)の切抜きしかなく、私にとっても幻の女装・性転換小説だった。
それでも、3回分だけをコピーして差し上げたら、「懐かしい」ととても喜んでくださった。

各回に付されている「はじめて読まれる方へ」によると、こんな粗筋だったらしい。

「中学の同級生戸田みのるに会ったのは、雨の銀座だった。彼は女装して見事な女になっていた。彼のアパートを訪ね、その告白を聞いたとき、性転換者の苦悩ともいうべき、自然にさからった人間の姿を見る思いだった。そして、彼がさし出した日記には、それぞれ標題がつけられていたが、内容は彼が異常な人間として自覚し、目覚めていく過程が克明に記録されていた」(第12回)

「15歳のとき、暴行で女と男を同時に知った彼は、その後、正常な道を進むことができなかったのである。彼は自分の体験を克明に記した日記をつけていた。第1冊『異臭の屍』は彼の初体験を、第2冊『薔薇埋葬』はゲイとしての生活を、そして、第3冊『部落の祭典』は倒錯した性のグループに入り、マゾとサドの経験を。さらに、マリワナの魔力に魅せられる過程を描いたのが、第4冊『夢幻の世界』だった。そして第5冊『夜光虫』につづく、第6冊『変身』は・・・・。」(最終回)

ところで、この小説の連載誌、連載年については、今までまったく検討したことがなかった。
そこで、改めて調べてみた。

連載誌は、誌面の特徴から、おそらく『週刊実話』だと思われる。

問題は、連載された時期なのだが・・・。
最終回に「最新刊」として広告が出ている遠山照彦著『診療所のある村―お医者さまと駐在さんの愉快な話』(波書房)という本が 1968年の刊行であることが判明した。

また、最終回の裏面の「今週の運勢」の頁が「8月23日から9月5日まで」となっているので、最終回の掲載は、おそらく1968年8月中旬のことと思われる。

最終回が何回に相当するのか、わからないが、第12回の裏面の野球に関する記事から、6月上旬だと推測される。
12~15回が6月、16~19回が7月掲載だとすると、8月を2~3回分とみて、全体の連載回数は21回もしくは22回ではないだろうか。
同じように考えて、8~11回が5月、4~7回が4月掲載と推定され、連載開始は3月初めだったと思われる。

残念ながら、この期間の『週刊実話』は、国会図書館も大宅壮一文庫も未所蔵で、現物に当たって確認することができない。

1968年という年は、ヒッピー、ハレンチ、サイケデリックなどが流行語になった「昭和元禄」と呼ばれる享楽的な世相の時代だった。
3~5月頃には、滋賀県雄琴温泉の女装芸者「よし幸」の性転換が週刊誌の話題になり、4月には丸山明宏が妖艶な女装姿で主演した『黒蜥蜴』(江戸川乱歩作、三島由紀夫脚本)が大ヒットとなった。
また、3人の女装男娼に「性転換手術」を行い、1965年10月に優生保護法28条違反で摘発された青木正雄医師の裁判(「ブルーボーイ事件裁判」)が進行し、注目を集めていた時期だった(翌年2月有罪判決)。

小説では、4月に女装、レズビアン、フェティシズムなど倒錯の性を描いた梶山季之『苦い旋律』(集英社)が刊行されている。

「華麗なる遍歴」は、そうした社会状況を背景にした作品で、1965~70年の「第2次性転換ブーム」の一翼を担うものだった。

ちなみに「年譜」によれば、なかにし礼氏は、この小説の連載が始まる1968年3月に離婚しているが、同年12月31日に「天使の誘惑」(黛じゅん)で日本レコード大賞を受賞し、作詞家としての地位を不動のものにした。

【お願い】
なかにし礼「華麗なる遍歴」について、何かご存知の方がいらっしゃいましたら、コメントをいただけると、たいへんうれしく存じます。

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【追加考証】
連載第12回の裏面に野球に関する記事が載っている。
その中にある記述を検討してみると、以下のようになる。

「村山が5敗目を記録した」「(開幕から)1勝も記録できない」
阪神タイガースのエース村山実投手が、前半戦不調で、6月には右手首炎症のため休養したのは1968年。

「田中勉(中日)」
中日ドラゴンズに在籍したのは、1968・69年の2年だけ。

「小玉三塁手を(阪神)に連れてきた」
小玉明利が、近鉄バッファローズから阪神タイガースに移籍したのは1968年(在籍は1969年まで)。

「朝井三塁手の広島移籍」
阪神タイガースの三塁を守っていた朝井茂治が広島カープに放出されたのは、1968年のこと(在籍は1970年まで)。

記事は、村山投手の不調の原因を、阪神タイガースの三塁手が、村山が信頼する朝井から、守備範囲の狭い小玉に変わったため、と推測しているので、その移籍が行われた1968年に書かれた記事であることが、ほぼ確定的。

現在、判ったことをまとめると、以下のようになる。

作品名:華麗なる遍歴
作者:なかにし礼
分類:小説
内容:男性から女性への性転換者の「日記」をベースにして1960年代末の「倒錯の性」を描く。
連載誌:週刊実話
連載期間:1968年3月?~8月
連載回数:21、もしくは22回
単行本:未刊行

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