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「ニッポン人脈記」男と女の間には(1) [朝日新聞「男と女の間には」]

朝日新聞夕刊連載「ニッポン人脈記」男と女の間には(1)

2010年09月06日 (月)

『朝日新聞』夕刊の連載(1面の下方)「ニッポン人脈記」、前のシリーズの「イラク 深き淵より」が延びに延びて、なんと23回・・・。

ようやく今日から「男と女の間には」(渡辺周記者、近藤悦朗カメラマン)が始まりました。
こちらはたぶん全13回のシリーズだと思います。

第1回は、性同一性障害の世田谷区議会議員上川あやさん(42)と、その「親友」の野宮亜紀さん(46)。

すでに十分に社会的認知を得ている方から・・・、ということのようです。
たぶん回を重ねるごとに、怪しい人物が登場することになるような気がします。

それにしても、野宮さんの社会的身分(和光大学非常勤講師)が書いてないのが、ちょっと不審です。
それと、上川さんの痩せすぎが心配・・・・。

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ニッポン 人脈記  男と女の間には(1)
1回.JPG

見えない壁 突き破った
心は女なのに、男の体で生まれる人たちがいる。

2003年2月の朝、上川(かみかわ)あや(42)は東京都内の私鉄駅前に立つと、意を決してマイクに声を放った。

「私は女性として暮らしています。でも戸籍は男性です」

世田谷区議選が迫っていた。立候補を決めた上川は35歳、化粧をし、長い髪が赤いスーツの肩にかかっていた。通勤客がちらりと見ては、けげんな顔で改札口に急いでいく。

趣味で女装しているわけではない。小さな頃から心は女だった。兄も弟もボーイスカウト、父は隊長だったが、次男の上川だけは可愛い人形にひかれ、母と台所に立つのを好んだ。

中学生になると、変わる体と声が耐え難かった。鏡に映る裸は自分とは思えない。のど仏が嫌で、人に見られたくないと終始うつむき加減になった。

授業も上の空、でも国語の教科書にあった「山月記」はむさぼり読んだ。心は人間のまま虎になってしまった詩人の苦悩に、自分のそれが重なった。

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性の自己認識、いわば心の性と、体の性が一致しない。ジェンダー・アイデンティティー・ディスオーダー(GID)。日本では「性同一性障害」と訳されているが、これを「障害」と呼ぶことには異論もある。

当時は医学的には手探り、社会的には未知の段階だった。まして子どもの上川には何が起きているのかわからない。苦しさは片時も離れず、しかも誰にも言えなかった。

就職した公益法人で男性職員を好きになったが、思いはかなわない。私は同性愛者なのか。

新宿2丁目に行った。出会った同性愛者いわく「男が男を好きでもいいじゃないか。女になる必要はない」。彼らは自分の体には違和感がないらしい。それなら私とは違うと思った。

やがて上川は同じ悩みを抱える人たちの会を知る。心は男で体は女という人もいて、みんな自分の体に苦しんでいた。

そうか、心を体に合わせるのでなく、体を心に合わせればいいのか。上川はホルモン療法を始め、公益法人を辞めた。

健康保険証は性別が記されている。当事者の中には、それを見られたくないから病気になっても医者に行かない人がいた。自傷行為を繰り返す人もいる。

変な目で見られ、戸籍の性別も法律上変えられない。このままでいいのか。会の仲間と話を重ねるうち、「上川さん、区議選に出てよ」と声が上がった。

議員になるなど考えたこともなく、世田谷に暮らしているが地盤と言えるものはない。何より世間にすべてをさらす覚悟が要る。

迷う上川に選択肢を示したのが、四つ年上の親友、野宮亜紀(のみやあき)(46)だった。男の体で生まれ、女として生きている。野宮は、立候補する場合、しない場合の利益と不利益を語った。

動かなければ、世の中は変わらない。それでも女性として生きてはいける。ただ、つらい人生だよね。あっちゃん自身、それでいいのかな――。

上川は決意する。高校時代、告白を真っ先に受け入れてくれた母ばかりか、反対すると思っていた父まで応援してくれた。

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すべての少数派の声を届けたい。訴えて回る上川に、風は冷たかった。「おかまか」「どういう性器なんだ」と容赦ない。涙が出た。しっかりして、とスタッフが尻をたたき、野宮は「こんな重荷を一人に背負わせるのは忍びない」と気遣った。

だが街の空気は変わる。

演説をしていると、目の前のバス停で本に視線を落としている若い女性がいた。女性はバスに乗り込むと、窓越しに上川をまっすぐ見つめてきた。その唇が、ゆっくりと動く。

「が・ん・ば・れ」

5024票、72人中6位で当選した。翌朝、年配の見知らぬ女性が上川に声をかけてきた。

「世の中、捨てたもんじゃないわね」

少数派を囲む見えない壁と、そこから聞こえる小さな声に敏感でありたい。区議になった上川は、そう思い続けている。

性同一性障害の人は、この国で数万人に上るとも言われる。異端視が社会から消えないなか、それでも本当の自分を生きようとしている人たちがいる。

(このシリーズは文を渡辺周(まこと)、写真は近藤悦朗が担当します。文中敬称略)

『朝日新聞』夕刊 2010年9月6日
http://www.asahi.com/jinmyakuki/TKY201009060210.html


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